小野田少尉のこと

 お盆は実家に一寸身を寄せ、古都という名の辺鄙な土地では碌な物を食べておらぬだろうとの親心に甘え、あちらにこちらにお食事に出かける毎日を過ごしてまいりました本当に心苦しく情けなくも申し訳ないけれど、支払いはご両親様で。そうして古都に戻って、もんどりうって暑さにむせ返っている日々を過ごしているわけです。
 実家でテレビをぱちっていたところ、おそらくBS-hiだけれど、小野田少尉のインタビュー番組が。なんという人生なのだ。この人について、何をどうとか迂闊にいうことは出来ないけれど、本当に強靭な精神の人なのだと心底思った。
 戦後30年間、終戦を知らずに戦闘状態に身を置き続けて、よく正気を保てたなと思っていたんだけれど、当時のことや召集令状を受け取った時のこと、戦友を失った時のこと、終戦を知った時のこと、久しぶりに帰った故郷のこと、靖国参拝のときの気持ちやブラジル渡航について悲壮感なく語る姿に、問答無用で胸が痛んだ。どうしようもなく惨いよ…しんどいなぁと思っていたら、画面の中で小野田さんは、「そういう時代だったんですよ」と明るく笑っていた。だから9条がどうとか言う気はないし、東京裁判の云々とか政治的な意見をもなかに書く気はないので脇においても、戦争で死に直面してきた人間の話は、想像以上に重い。
 最もショックだったのは、小野田さんが決心していた最期についての話。終戦を知らずに戦い続ける中で戦友と二人で、「60歳を過ぎたらもう無理だろうから、最後の日は一番いい服を着て出て行って、持ってる弾ありったけ全部空に撃とうってね、そしたら向こうから蜂の巣にしてくれるからね」。穏やかに微笑んだ小野田さんに、インタビュアーの作家は絶句した。テレビの前で私も絶句したんだった。何の言葉もでない。
明日に向かって撃て!〈特別編〉 [DVD]テルマ&ルイーズ [DVD] すごく不謹慎だしベタだけども『明日に向かって撃て』とか、『テルマ&ルイーズ』とか、他にもたぶん沢山あるけれど悲劇的なハッピーエンドというか、破滅的な開放感のあるラストの映画はとても好きなんだけれど、フィクションという名のカタルシスがあるから成立するんであって、小野田さんの決心していた最期があまりに悲しくて、どういう感想を書いてよいものか分からぬままに、今日も今日とてまとまりのないままこの辺で…。