ネットこの深くて暗い穴

　何か面白リンクはないかなとリンク元を眺めていて青ざめたのは、恐ろしい文字を見たから。私はこの顔無し無限大の仮想空間が、いつまでたっても得体が知れなくて恐ろしいブラックホールだと思っているのですが、だって先日自死した男子高校生を最終的に追いやった原因のひとつには、ネット上にきつい写真や個人情報がばら撒かれたというのも強烈なパンチだったろうなと思ったばかりのところだったから。
　ネットって底なしの面白さと恐ろしさを兼ね備えた穴。例えば自分に開いた穴を塞いでくれるような錯覚も与えてくれる。現実空間に居場所を見つけられないと感じている人を包んでくれる、居心地のいい穴にもなってくれる。このおっそろしい穴は時々優しくて、最初はごくフレンドリーに、さあおいでと両手を広げてくれている。と思い込んで飛び込んだら、蟻地獄みたいに仮想子宮みたいに、さて好きな時に穴に入って安らごうと思っていたはずの人をずるずるずる飲み込んで、親切なことに本人には飲み込まれた自覚も与えないままに中毒にさせてしまう、優しい毒持ちの穴。
　穴の中ではみな一様に顔無しなので、私もこのように実生活ではわざわざ口にしてもしょうがないことや、人に言ってもうざいだろうなという弱音を穴掘って吐き捨てるの。王様の耳はロバの耳だよって呟いて、すっきりしようなど試みてみたり。顔無しゆえに、顔無しの相手には好き勝手言っても大丈夫。相手の傷ついた顔を見て面倒くさい思いもしなくていいのだもの。謝ったり、埋め合わせしたり、仲直りしたり、思いやったりしなくていい。ただの穴なんだもの。
　ネットって超便利で優しくて、便利すぎて優しすぎて、時々困ってしまう。昔誰かが教えてくれた。万物はコインの裏表だよって。強い光は深い闇がなくては成り立たない。強烈な憎しみは熱烈な愛着がなくては生まれないし、希望を持たなければ絶望しなくてすむよ。嫉妬心はリスペクトを認めたくないから。といったことを日々自分に言い聞かせて、なんとかフラットな状態で生きてゆきたいわと思っているという話。表裏一体ってすごい熟語だと思う。
　そんなこんなで、主旨も論点もなく穴に向かって何やら呟くうちに、何を書こうと思っていたのか忘れてしまった自分が恐ろしいです。深淵を覗き込む者は気をつけな。こちらが覗き込むとき、深淵もまたこっちを見つめているんだからってダンテだかニーチェだかの有名人が書いてたよって賢ぶってみようとしても思い出せないし、読み返すには私は少しくアルコールで眠気が襲ってきているので、この辺で。このようにして、入っていっているようでいて飲み込まれているのがネット私もまた。