『ファントム・オブ・パラダイス』

mxoxnxixcxa2006-03-08

 春先ってほら、徐々に気候が温かくなって寒い冬が去ってゆくとともに、何か新しい息吹みたような気配があふれ出し、うららかな日の光がそこここに満ち、おおこれでまた世界は新しくなるな、しかし己ときたら何一つ変わらぬじゃないか。
 どうもこう、細胞が芽吹く感じというか、体内の奥から何やらが突き上げるように立ち上ってきたりして、ある種の人たちは脳内のシナプスの具合まで春になってしまい、奇行に走ったり、嬌声を上げて町内を走り回ったり、気が滅入ったり、地下鉄に飛び込んだり、あれこれの手段で自分の存在をこの世から消してしまおうとしたりする傾向もあったりで、つまりは意味もなく気がふさぐ人も多いのだと思う。鬱傾向を持つ人は、そんな人は映画を観たらいいと思う。この映画を。
ファントム・オブ・パラダイス [DVD] ロックオペラ仕立ての『オペラ座の怪人』。ブライアン・デ・パルマのポップセンスがきらり。カルト映画なのか、B級映画なのか、ミュージカルなのか、コメディなのか、真剣なのかふざけているのか、面白いのかつまらないのか、キュートなのかキモいのか、見る人によってさまざまに姿を変える魅力あふれる一作です。チープにして絢爛。ライトかつ悲哀がどっしり。ポップにして切なさのカオス。不朽のラブストーリー。
 春という陽気にやられてベッドから起き上がる気もしない、もうだめだ一刻も早く消えてしまいたい。そう思う前にこいつを観たらいいと思う。色んな意味で力が抜け、ある人は時間を返せと怒り、ある人は人生の一本に出会うはず。
 そうしてあくまでもポップにライトにお気軽に陽気に、この映画には徹底して救いがなく、夢は奪われ愛は無碍にされる。誰にも愛されず求められず疎まれる男の話。しかしながらもう、そのすべてを包み込んでれるのがエンディングの曲です。のんきなメロディーにのせて聴かせてくれます。

何の取り柄もなく人に好かれないなら死んでしまえ
悪いことは言わない 生きたところで負け犬
死ねば音楽ぐらいは残る お前が死ねばみんな喜ぶ
だらだらといつまでも生き続けるより 思い切りよく燃え尽きよう
自分ひとりだけを愛し 誰にも心を開かず 
どうせ人間は死ぬ運命なのさ
人生はゲームのようなもの だまされることもあるさ
生きるなんてどうせくだらない