強度偽装劇場にはまる

mxoxnxixcxa2005-12-14

 登場人物も、姉歯四ヵ所に、訊く方も三日月馬淵なんていう珍しい苗字オンパレード。もう本当に映画か小説か、みたいに興奮しつつ耐震強度偽装問題の行方をみつめる。
 話題の建築物が出来ても、いつだって脚光を浴びるのはデザインをした意匠。華やかな注目を浴びないままに、黙って建物のキモを、土台の重要な部分を支える構造設計者側の悲哀をそれとなく耳にしていたので、こんな形で光を当てられて、嬉しいんだろうかと余計な同情をする。一般の一級建築士が気の毒。
 経費削減が至上命題なんていうのは、何か創ろうと思えば避けようがないだろうし、コストとスピードと受注の絡まったプレッシャーなんて大半の設計士は経験しているのだろうと、完全に部外者の青二才だって薄ぼんやりと分かる。小さな個人事務所なら尚さら厳しいだろうなってことも想像がつく。あとは倫理と責任感の問題よねなんて、簡単に言って良いのかさえ分からない。知っている一級建築士は多くを語らないけれど、構造設計の待遇の悪さに、今まさにスポットが当たっていますねっていう。スポットが当たったところで、今後何がどうにか変わるわけでもないんだろうけども。程度の差こそあれ、姉歯が他にも居ないはずはないような。
 そんなことを思いつつも、やたらとテレビに出てきては自己弁護に必死なイーホームズの藤田を見ていて、ああやはり人間の見た目は重要なポイントだなぁと思った。なにかこう藤田さんなどは、超高級3つ星レストランの薄暗い照明の中でイイオンナと向き合って座り、ソムリエに向かって「このワインなかなかいいね。メルシー」とか気取っているのが簡単に思い浮かべられるし、まあ藤田さんなら良いやと思わせ、しかもそれなりに似合う容貌をしている。静かに笑って「君の瞳に乾杯」など言っても、「やだぁもう」で済まされる容貌。見た目は重要なのだ。努力じゃ埋まらないものはある。
 そんなイケメンな藤田さんがやおらテレビに出たおして、「偽装を隠蔽せずに世に向かって告発した」英雄として、いかにもヒール顔のヒューザー社長をこき下ろして痛々しい姿を晒せば、ザルみたいに審査を通していた事実なんか忘れて勇気ある潔癖なイケメン藤田を応援しそうになる。知っている一級建築士に「専門家なら見りゃ分かる」と聞いていたにも拘らず。これが藤田さんの容姿がもっと微妙だったなら、姉歯が「(書類になんて)まったく目を通してないっていうことです」と言うまでもなく、国民みなが即座にてめえこのやろうと思うはずなのだ。見た目で人は損・得をするなと考えた。
 それになんだ、喚問中の木村建設の篠塚さんの眉間とへの字口があまりに恐いので、ソファーにふんぞり返ってタバコを吸いながらぞんざいな態度でうつむいた姉歯に向かって、「もっと減らせよ。構造事務所はおまえんとこだけじゃねえんだよ?干すぞこのやろう」と恫喝している姿が想像できてしまうのだ。本人は必死で違うと言っているっていうのに。人間やはり見た目がものをいうに違いない。この悪人面の支店長だって、木村の全てをかぶるのだ。本当にキックバックは全額懐に?なんて想像の翼が羽ばたいてゆく。不謹慎だけれどこの偽装劇場が野次馬根性を刺激してやまないのだ。いけないなあと思いつつ、はまってしまう。
 世の中には見えない部分がたくさんあって、この事件だって適当な悪者を何人か出して、有耶無耶で終わるんだろうってことくらいしか分からない。建築・土木業界なんてもっとも政治と密着していそうな分野。どこか一箇所を引っ張れば、ものすごい大きくて黒くてどろどろしていて凄まじいものがずるずる出てきそうな気がするのに、そういう深い闇の部分が浮世を動かしているってことだけ分かってきた。総研のおじいちゃんから国会の議員バッジ達にいくら流れていようとも、影の部分が一般人の目に晒されることなんてない。
 姉歯を見ながら思った。鉄筋を抜いて構造設計者が何か得するか?「私一人では出来なかった」のだ。姉歯の友人談が夕刊に載っていた。「殺されるかもしれない」って、おいそんなに恐い世界なんですか?森田さんが死んだのは自殺じゃないかもしれないっていうのは、小説の読みすぎとかじゃないってこと?もうこの偽装劇場から目が離せなくてどきどきするよ!建築業界には一体ナニが住んでいるのだろう。世の中の全てを操り動かしているのは、諭吉の持つパワーなんだろうけれども。