『コールド・フィーバー [DVD]』

 先日の『春にして君を想う』でふと思い出したのは、同じフリドリック・トール・フリドリクソン監督の『コールド・フィーバー』です。ジャパンのアクターとしてニュアンス系の名を浅野忠信とともに欲しいままにしている永瀬正敏主演のアイスランド映画で、これの字幕なしビデオをもっているのです。米国のビデオは日本の規格と違っても、英国のは再生可能なんですね。「これは好きそうだよ」とかなんとか、にやにやしながらくれたので早速観てみたところ、えもいわれぬ不思議な感覚に包まれました。
 主な内容は、日本のサラリーマン・ヒラタ青年が、アイスランドで死んだ両親の供養をするために極寒の国を訪れ、現地の不思議に数々遭遇し、ポンコツ車を買わされ、米国人カップルにカージャックされ、挙句妖精にまで出会いながらも、両親の死んだ川へとたどり着くロードムービー。何が起ころうとも、どんなトラブルにあおうとも、ぬぼーっとした表情で受けとめる永瀬正敏。それなりにむかついているんだけれど、アイスランドの大パノラマの前では怒るだけ無駄。
 筋としてはこれだけなんだけれども、もう本当にアイスランドを堪能でき、白く煙るアイスランドを心から堪能でき、とにかく神秘的なアイスランドを堪能できるのです。しかしながら行きたい!という気持ちは一向にわいて来ず、だからこそ何度も観たくなる、そんな不思議な吸引力をたたえた一作です。妖精が叫んだ瞬間に、私は驚きと喜びが複雑に入り混じった笑いが出ました。
 異国の中に置かれた自分、異文化に対する戸惑いを扱った作品だけれど、『ロスト・イン・トランスレーション』に感じたような不快感は皆無。どこまでも長閑で静かで広くて寒くて美しくて不思議なのです。