ノリカ先生の「Today is a very good day to die.」

mxoxnxixcxa2005-06-18

 以前録画して放置していた藤原紀香主演のドラマ『天国のカレンダー』をちょっと前にみた。
 わざわざドラマを録画までしてみたのは、なにもこの素敵姐さん風の自己演出屋さんのファンだというわけではなく、始まって早々からもうノンストップで泣きっぱなしだったのは、ノリカ先生のハツラツとした演技や、やや現実味のない患者の設定に感動していたからでもなく、最近、大好きだったYさんという人が癌で死んでしまったから。大病院のあれこれはまだ記憶に新しい。
桜の花が咲く頃は、皆さんと一緒にいます」。ここでとうとうおいおい泣いてしまった。Yさんと最後にお出かけしたのは、体調が劇的に良かった日に行ったお花見だった。それ以降、急激にがたがたと悪くなってそのまま死んでしまった。
 Yさんの最後の言葉は、付き添っていたNさんに「もう何もしなくていい」だった。看護士さんは、死に対面している人には2種類いて、本当に穏やかに日ごと透き通って白くなっていく人と、やたら気難しくなって文句ばかりを言う人とがいると言っていて、Yさんは前者だった。その日は指の先からどんどん冷たくなって血圧も取れなくなり、あ、今日なのかもしれないとNさんは分かったと言っていた。「今日なの?」と訊くと、「そう」といって頷いたのだそう。
 最後の最後まで聴覚は残るというので、Nさんはずっと「恐くないよ。光の中にいくんだよ。お母さんに会えるよそこはきっと良い所だよ」とか言い続け、見守ってね、あの人やあの人のことも守ってねまた会おうねと、ここぞとばかりに沢山お願いしたといっていた。「行かないで」なんて言ったらYさんは困ってしまう。
 遺影は私が以前撮ったもので、「その3倍笑って」と言って、Yさんが「3倍?」と答えた瞬間。我が家のオーディオの前にその小さな写真を飾ってあるんだけれど、Yさんはそこでいつも笑っている。Yさんはどこに行ってしまったんだろう。私は魂なんて全く信じていないくせに、それでもYさんは天国とかで楽しく暮らしているべきだと思う。
 死んだらどうなると思う?天国はあるのかなどんな所だろ。いつも訊きたくて恐くて訊けなかった。訊けばYさんは答えてくれたんだと思う。訊いていたら、そこにいるYさんを思い浮かべることが出来たのに。でも私は愚かで、どこかでこう、何か奇跡的な何かが起こるんじゃないかと思っていたのだった。Yさんに、もっと何もかも聞きたかった。管だらけになってもYさんがもう何も分からなくなっても、生きていて欲しかった。電気で強引に心臓を動かしてでもなんででもいいから生きていて欲しかった。1ヵ月と待たずMさんまで脳出血で倒れて呆気なく死んでしまった。一体何なの。
 もうすぐYさんの49日がやって来る。私が寂しいのは、なんだかYさんが居なくなってしまったことよりも、悲しさが薄れていくこと自体の気がして、余計に空しい。ふらふら買い物をしていて、「あ、マンゴーだ。Yさんと食べたな…」と思って立ち止まる。もういないんだ。なんだか猛烈に寂しい。
 Yさんが居なくなったらどうしたらいいんだろうと思っていたのに、泣いて暮らしているわけじゃない自分が居る。Yさんが居ないことに慣れてしまったんだと思うとそれが悲しい。これは人間の防衛本能なんだフロイトだって言ってるじゃん喪の仕事を経て死に折り合いをつけていくんだって。私に起こっているのはこのプロセスなんだからとかって文字上の知識で分解してみても、意味あるのだろうか。
 このドラマは消してしまったけけど、保存しておいても良かった気もする深夜2時。藤原紀香は演技も含めてそれほど好きじゃなかったのだけれど、美容面やあれこれそれ、努力の人だなあと尊敬はしている。それに、なんかこう、このような画像を見てしまうと、とてもいい人のように思えてきた。