お金持ちのいる風景

 数年前に、あるホテルでの仁左衛門のデザインした着物をパンダにした呉服の展示会に、客じゃない形で触れたことが。何百万円の着物と、それを買うお金持ちと、もみ手をして跪く京都の呉服屋のごっついご商売人の方々。日本の呉服業界って何かが渦を巻いている。まずあの販売形態も凄い。何かこう、お客の心理を上手くつついて誘導していくようなあの手法。恐い。
 諸々の呉服屋が懇意のお客様を「特別に」お招きしてお連れする。その特権意識が購買意欲を促進するのだろうね。一人をわあっと取り囲んで「これほどのデザインですと、お客様のように個性的な方でないととても着こなせまへんわ」なんて上手いことを言う。そのお客はんは100万とか200万とか、きっちり値切りも入れてのお買い上げ。こういう世界もあるんだ!
 その後は会費制でお食事会、仁左衛門様のトークあり、ご一緒に写真を、という集まりにものすごい場違いな私も紛れ込んでしまった。もう、ゴージャス。そりゃもう雅な世界だった。芸者の踊りと、豪華なフレンチのコースにワイン。私は新聞か何かを食べているような気分で機械的に飲み込んだ。その場の皆様のほとんどは、私の年齢の2倍、3倍以上。そのテーブルの中で小さく小さくなって気配を消し、緊張のあまり眩暈がして吐きそうさ。場違いすぎてもう二度とあんな場には行きたくない。
 しかしさすが歌舞伎役者・仁左衛門さまだった。とても御口が上手で、よいしょもさらりと上手かった。素敵だった。ダンディーだった。司会の女の人がしゃべくる間、一瞬「もう超疲れたな」というふうに目をしょぼつかせたのを見つけてしまったが、それでも口元は常に微笑を絶やさなかった。さすが二枚目の中の二枚目。夜の舞台の後なのに、そのプロ意識には感服した。
 17日名古屋で行われたという「福助トークショウ」。もちろんディナーつきというその雅な世界は、どんな雰囲気だったのでしょうか。いつか高度な社会的地位を手にしたら、ぜひとも自信を持って参加したいものですわ。