三月花形歌舞伎・変身モノ

 南座で18日夜の部「児雷也豪傑譚語」を観ることができた。南座は3度目の経験。菊之助に今まであまり興味がなかったため、特に期待はしていなかったのだけれども、同じ花形歌舞伎で、先月観た「三国一夜譚」の唐突さと突飛さに比べ、非常に面白かった。
空前絶後の ハイパー歌舞伎」「このスペクタクルに 引き込まれろ!」と、南座の動画で散々煽られての観劇。動画はここ。筋書きにもあったが全体的に『スターウォーズ』を意識したというその影響は、そこかしこに。ダース・ベーダーを意識したと言う松録の大蛇丸に、ライト・サーバーを振り回す菊之助児雷也。これはもう特撮ヒーローモノ。休憩を差し引いて3時間の通し狂言。でも、見せ場が盛り沢山で全然飽きなかった。
 蛙、蛇、蛞蝓の三すくみのだんまりなど、2メートルのナメクジがつやつやしながら両目を突き出して光らせ、巨大な蛇と戦っている絵づらだけでもう可笑しい。先月亀に乗った染五郎の空中での硬直した顔に比べ、鷲に跨って空を飛ぶ菊之助は余裕をかましていた。他2場面ほど、宙に浮いたり。
 菊之助はあまり観たことがないのだけれども、立役としては線が細いのか綺麗だけど何か物足りないというか薄いというか、ペペペペペペ・ペン・ペペペなんていう妙なボレロの調子に合わせてハジケる菊五郎が強烈過ぎてもう。息子を喰ってどうするんですか。ここまでやる人間国宝って多分すごい。そして好きそう。正月の国立劇場では“本家”に許可をもらって、三番叟の途中で唐突にマツケンならぬマツゲンサンバをノリノリでかまし、客席を唖然とさせていたそうだから、そりゃもう好きなんだろう。
 最後の幕の、舞台中央奥に囃子連中や和太鼓をあげての立ち回りは、歌舞伎において初めての演出だそうだけれども、すごくかっこ良かった。総じてとても見ごたえがあり、満足して劇場を後にした。決してスーパー歌舞伎ではない、ハイパー歌舞伎。空飛んだら普通の歌舞伎ではなくなるのだろうか。スーパーは見たことがないし、よくわからぬけれどもこだわりがあるのだろう。
 しかし、なんかわりと空席も。昨年5月、所用ついでに福助橋之助の怪談物「新世紀累化粧鏡」に行けたが、その時は大入りと聞いていて、事実大入りだっただけになんだか意外だった。12月の海老蔵は言わずもがな。海老蔵の集客力ってなんなんだろうすごいよ。襲名だから?武蔵だから?