『フェイシズ』

mxoxnxixcxa2005-03-23

 米国インディペンデント・ムービーの父ジョン・カサヴェテスの初期の作品を見つけて鑑賞。うなった。ジョン・マーレイジーナ・ローランズ、リン・カーリン、シーモア・カッセル四者の演技がもうリアルというか演技に見えない。言葉では一切語らずに、各パーソナリティーのバックボーンが浮かび上がる。その細かな感情の一瞬を、アップを多用したショットで切り取る。その切り取り方も徹底的。
 ミドル・アッパークラスの夫婦、家庭に収まってくさくさしている専業主婦たち、三十路を手前にした娼婦、そのお客達、豊かさの飽和状態の中で刹那的なほど今だけを楽しむ青年。みんな表向き、必死で幸せや楽しさを演出することで、キレそうな現実や今にも壊れそうな繋がりや不安から目を背けて、そうすることで日常を保っている。とことん空虚な馬鹿笑いで相手の腹を探り合う乾いた空気。酒を飲んで、歌って踊ってはしゃいで、でも一瞬素に戻る瞬間がある。人生こんなはずだった?というような。でもその次の瞬間には、そんな不安をジョークで吹き飛ばす。人間て弱くて賢い。
 また、この作品の主軸となっている夫婦の関係の空しさもそりゃもう凄まじかった。始終冗談を言い、ちょっとした感情の起伏もジョークでごまかす夫に、妻はずっと笑い転げて答える。そこにはどうしようもないくらい緊張した空気が流れていて、お互いの必死さを一瞬の沈黙が強烈にあぶり出す。
 理想主義の裏側の真実のアメリカの“顔”を突きつける。という言葉がパッケージにあるけれども、これ以上うまい言葉はない気がする。一見全てが即興にも見えるけれども、練りに練った脚本と緻密に構築された役者の演技、この2つさえあれば、たとえ35年以上前の現実であっても決して古くなんてならない。計算しつくされたリアリズムだからこそ、普遍性を持つんだと実感。さすがは生身の人間を描く監督カサヴェテス。すごい作品だった。なんかもう息苦しいくらいだったけれど、観終わって何処かしみじみとする。
 そしてなんといっても、カサヴェテスの女神ジーナ・ローランズ。私はこの人の出ている映画なら何でも好きになるくらい、その存在感が好き好きでしょうがない。モノクロの映像は、彼女のアンニュイでナイーブで強いというような魅力をさらに引き立たせている感じ。

フェイシズ [DVD]

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