滴り落ちるよ母は

　母が受話器から滴り落ちてきます。母娘はシンプルじゃないですね。母愛してる早く死んでくれ。でも置いてかないで。いつか蹴り飛ばして逃げてやる。ずっと見捨てないで。私は母のゴミ捨て場じゃない。重たくてだるい。
　境界例スパイラルに飲み込まれぬようにするには、キープクールの精神で麻痺しちゃえよ。憎んだら私は母のような女になってしまう。可哀想な女だ。彼女は不幸せなのだ。何にも満足できない。それでも母には私が必要で、もしかしたら私には母が必要なのだ。しょうもないスパイラルから走っても走っても、どうせ母は振り向いたらそこにいて、あんたは駄目よと言う。私はこうだったわと言う。足りないわという。努力が足りないわという。私は母のように賢くもなく、また社会性も常識も礼節も協調性もなく、そうして母ほどの美人にもなれなかった。バレエもヴァイオリンも続かなかった。水泳も教会学校もいやだった。母早く死んでくれ。でもそうしたら私は脱け殻になってしまう。
　母の嘆きを浴びていると、すっかり痛い子ちゃんになりそうです。せっかく今日は知人と楽しく飲んで帰ってきたのに。でも私は強いので、こんなことは大したことじゃないんだ。