『グロテスク』桐野夏生 女女女…

mxoxnxixcxa2006-06-26

光り輝く、夜のあたしを見てくれ
 昨日思い出した東電OL殺人事件。あのとき私は十代で、特に引っかかるものを感じるわけでもなく、なんか変な事件だなぁと思って通り過ぎていったわけですが、数年後、大好きな作家がこの事件をヒントに書いた本で、この事件に出会ったという感じでした。この世は平等ではなく、努力で手に入れられないものはあるのだ。
 母と娘・姉と妹・同級生というライバル、家柄、階級差、嫉妬、憎しみ、情念、認められたい、一目置かれたい、自分という存在を尊重されたい、あいつより上に行きたい負けたくない愛されたい必要とされたい。そういった、女の抱えるどろどろした暗部を抉り出すような凄まじい一冊。
 さまざまな登場人物の手記という形で進んでいく小説で、ある事実が当事者ごとに自分に都合のいいように描かれる。そういった形をとることで、人間の複雑さや情けなさ、ずるさや弱さをもあぶりだす。頑張れば頑張るほどに報われなさが襲ってくる。必死で努力するほどに、埋まらない穴が広がっていく。人間はもって生まれたものを超えることは出来ないのだ。家柄も、容姿の美しさも、頭の良さも。
グロテスク この世はこんなにも住みにくいところなんだろうか。女として生きることは、こんなにもやりきれないものだろうか。そういう反発心を抱きつつも、身を切るような痛ましさが胸に迫ってくる。私はエリートでもないしOLでもないわけですが、この気が遠くなるような救いのない寂しい本を一気に読みつつ、頭が痛くなり、思わず目から水が出てきそうになりました。すごい本ですが、もう二度と読まないと思う。読後何年か経っているけれど、いまだに内容は鮮明。
この世の全ての差別を書いてやろうと思った」 桐野夏生の真骨頂だと思う。