歌う悪霊

 絵本好き女子一匹。民話大好き。悪魔とか人喰い鬼とか魔女とか魔法とか、すごく心躍るものなのに、昨今わざわざそういうものを、やれ残酷だなんだと排除していて、人魚姫がいつまでも幸せに暮らしたり、桃太郎が鬼を説得したり、いびつな道徳心というか過剰な良心というか、そういうあざとい姿勢がまずイヤ。
 とかく各地の民話っていうのは、岩一つに物語があり、川が出来た過程に物語があり、冬の寒さやウサギの耳が長いことにさえ物語があって、そういう物語とある種の残酷さは決して切り離せないもの。子供を失った母親が泣き暮らして目を潰し、その涙で湖が出来たとか、戻らぬ誰かを待ち続けて岩になり、それでもまだ待ち続けているとか。そういう美しい物語は、残酷さや悲しさ痛ましさ、またはそこにちょっとした可笑しさがなければ成立しないのであって、お蕎麦の茎が赤いのは地面に叩きつけられた天邪鬼の流した血なんだとか、それを生々しく想像する子供なんていないのだ。
歌う悪霊―北アフリカサエル地方の昔話から (FOR YOU絵本コレクション Y.A.) そんな長々前置きをしつつ、これはものすごくツボ絵本でした。貧しい男が悪魔の住む土地に麦を植え、悪魔の手を借りて麦を育て、自らのまいた種で身を滅ぼす話。救いもへったくれもなし。それでいいの。
 そうして絵がまた、とにかくユーモラスな悪魔達が魅力的。特にいいのが闇の部分で、黒い部分が残してあるんだけれど、この闇がまたとても効いていて、長く伸びた影、闇に溶け込んでいる悪魔、闇に浮かび上がる人間といった絵は、闇にユーモアを見出すメルヘンの魅力満載。なにかこう、暗闇の奥に何かが潜んでいそうだと思ったあの頃の感じがある。私は今支離滅裂で酷い文章だと思ういつものことだけれど