きらめきの季節/美麗時光

きらめきの季節 [DVD] とてもよかった。一言でいえばチンピラものの青春の日々なんだけども、ああ、いいもの観たな…と感慨に耽った。ホウ・シャオシェンの助監督出身というチャン・ツォーチ監督作品は初めて観た。
 台北に住むアウェイとアジェの物語。従兄弟同士で、親友のような関係。目標も目的も無く日々無為にぶらついている。アジェは昔、母の日に母親に会いに行って追い返され、それ以来手品にはまり「世界を変える」が口癖のいかれた男子。一方主人公のアウェイは冒頭のナレーションでこう言う。
おれは違う。おれは愉快な人間だ。他人とは違う。あれこれ悩まない
 映画は前半、こんな2人の日常を静かに描いていく。母親を早くに癌で失くしたアウェイの双子の姉ミンは末期癌で、ホスピスから帰ってきて祖母や妹に世話になりながら、最後の日々を淡々と過ごしている。ろくでなしの父親と、それに文句ばかりを言う祖母。かつて、いさかいの絶えない家庭に耐え切れず家出をしたミンは、病気が分かってから恋人と別れ、家に帰ってきたのだ。アウェイにとってミンはかけがえの無い存在で、そんなミンはアウェイに現実を受け入れることも美徳だといって聞かせる。
 そんなワル2人が何となく暴力団組織に入り、取立て屋の仕事と銃を与えられて羽目を外してはしゃぐ。映画の前半は美しいけれどやや退屈で、どこかで観たような感じだなあと思っていたんだけれど、ある日、取立て先でアジェが発砲事件を起こしてから、一気に映画が動き出す。
 台北から逃げ出し、ミンの元恋人の所に身を寄せた晩に、アウェイは体に異変を感じる。アウェイは病院に向かうが、同時にそのとき、双子のミンが最期を迎えている。
 もがき苦しむ娘の手をとり、父親がいう。「家族の顔を覚えておけ」。一瞬はぁ?と思っていたら「間違わずにきっと戻って来い」「辛抱しろ、誰にでも訪れる苦しみだ。家族の顔を良く覚えておけ。忘れずに帰ってくるんだぞ。帰ってこいよ」。ここに東洋ならではの死生観をみて涙が出た。ミンの残した手紙に泣けた。「〜私も家族なんですね。生まれ変わってもまた娘にしてください…
 この映画のいいところは、感動的な音楽を流したり不必要な顔面アップを多用したりせず、また単純で明快な家族の再生やら生の大切さやらに、安易な答えを提示しようとしないことだ。何もかも一切が、可も不可も与えられないまま淡々と過ぎていく。端々に出てくる熱帯魚の水槽は、この映画のいろいろな側面を象徴していると思う。
 終盤の現実と幻想の入り混じった展開は本当に秀逸。最後の水中シーンはどう解釈しても良いように見る側にゆだねられていて、水の中にはミンの好きだった熱帯魚が泳ぎ、アジェは背中に刺さったナイフを抜いておどけて見せる。アウェイは大好きなカンフーをかまして、2人で大はしゃぎ。音楽が流れだして、ここではじめてこの映画では殆ど音楽が使われていなかったことに気づく。そうして、アウェイの冒頭のナレーションが繰り返される。アウェイが自分自身に言い聞かせるみたいに。
アジェ、おれの従兄弟。手品に夢中のいかれた奴。世界を変えられる気でいる。おれは違う。おれは愉快な人間だ。他人とは違う。あれこれ悩まない。ただ…よくないことが次々起こる
 映画は楽しげな水中シーンから、水面に向かって気泡が上がっていく画面そのままでエンドロールになる。切ない…。
 どうしようもない底辺の環境に絶望するでもなく、希望を抱くでもなく、刹那的にきらきらしながら破滅に向かって突っ走る少年2人の姿は、終始美しかった。それでいてどこかもの悲しかった。映像がとにかく綺麗で、薄暗い画面に差し込む光や外の眩しさが本当に美しいです。きらめきの季節/美麗時光 公式サイト