『イン・ハー・シューズ』

mxoxnxixcxa2005-11-26

 自分に引き寄せて身につまされたりというより、何となく応援せずには居られぬ登場人物たちに微笑みかけたり一緒になってほろりとしたりする映画であるというべき映画。容姿に恵まれないキャリアウーマンでしっかり者のぽっちゃり姉、バカで自分勝手で図々しいけどルックスは完璧な妹の、衝突と和解の姉妹の絆物語。家族のつながりを広く視野に入れた基本的にとてもいい話。これは女の子映画というくくりでいいのだと思う。出てくるオンナノコは7.80代のギャル達を含めて全員がキュート。
 ナイズガイに使い捨てにされ傷ついた、30代・みこん・子ナシのデキる女・姉は傷心のあまり弁護士という職業を捨て、フリーの犬の散歩屋に。生活も老後もあるのに、んなことするかー!と心の中でつっこんだら、やぼ。
 そんな姉に「ボクはずっと君を見ていたんだよ」と眼中になかった元同僚が現れ、王子様に変身する。繊細そうで優しくて誠実で顔だってそこそこイケてる弁護士王子は、全ての乙女が待っている人。食通で感じが良くて、押し付けたりせずにあちこちお誘いをしてくれ、一途で純粋で自分だけを見ていてくれる。さあ性交をという段になっても、電気はつけたまま。「キミの顔が見たいから」と優しい目で伝えてくれる。人生がこんなドリー夢に満ちていたら、負け犬なんて言葉はないわ!と叫んだら、やぼ。
 優しい教授に出会って心暖かく教育され、読書障害を克服する妹。そんなにカンタンに克服できるかー!と叫んだら、ああやぼ。
 テキサスの知事だって立派な世界一の超大国の大統領になったのだ。彼の好きなご本は「はらぺこあおむし」。我が家にだってあったはらぺこあおむし。いいじゃないか「本の素晴らしいところは、綺麗な絵があることだ」と世界を牛耳る男が言ってたって。徐々に自分に自信を持ち、ろくでなしだった妹は成長してゆく。
彼女を見ればわかること [DVD] 芸達者たちの演技と巧みな演出には、うっかり何度かほろっときそうになった。キャメロン・ディアスは『彼女を見ればわかること』くらいに凄く良くて、肌の劣化が生々しいなと思ったのも最初だけで、やっぱり凄くキュート。トニ・コレットは本当に素晴らしくて、顔面の皮膚を可能な限り吊り上げているシャーリー・マクレーンはキュートな老女達から超浮き上がっているんだけれど、やはりすごくかっこよくて説得力があって、不甲斐無い父も、嫌な女である義母も誰も彼もがきちんと血の通った人間になっていて、話の流れもそつがなくて、ああ面白かったね良かったねといって劇場を後にして、ふと、どうしようもない虚しさに襲われた。
 夢の世界から現実に立ち戻ると、ああ世の中は思うとおりに事が運ぶわけでもなく、願ったとおりの何かが待っているわけでもない。ハッピーエンドは約束されず、努力は必ず報われるわけでもなく、つまづいても上手に立ち上がれるわけでもなく、窮地に陥れば手堅い助けが現れるわけでもない。ないないづくし。おまけに私は妹をこんなに愛してもいないんだった。不肖の姉は弁護士資格も持っておらず、がんがん仕事をこなす高収入キャリアウーマンでもないわけで、この映画の姉に共感なんて恐れ多くて申し訳なくて、とてもじゃないけど出来やしないのだった。それでも引き込まれるのはひとえにトニ・コレットが素晴らしいからだ。
 人生に劇的な変化が望めない市井の小市民は、せめて映画を見てああいいなぁと言いたい。こういうことが起こったらいいなぁと浸りたいんだ。無心になって惚けたい。夢いっぱいで良いじゃないか夢を見たって良いじゃないか夢に浸って良いじゃないか現実なんてつまんないことだらけ。映画ならみんなが幸せになれる。私の足もキャメロン・ディアスみたいだったらいいのになぁと思った一日。
 女子大生たる妹とは用事がないと電話もしないし、そもそも姉であるという理由ひとつで何でもかんでも頼られ甘えられるのが我慢ならねえと思っている冷たい姉は、妹にこんなに熱い絆を感じたことがないことに気がついてきた。夢いっぱいの、悲しいくらいにキュートな映画。何か感想も愚痴っぽくて可愛くなくて、やぼ。あーあー。