『下弦の月』

 そんなこんなで、話題の映画『NANA』は、予告を見る限りでは主役2人の演技がかなり苦しく、予告を見る限りではセリフも相当夢いっぱいで、なんだ、すっかり汚れてしまった私なんかは予告だけでもラブリーすぎて痒くてたまらず、だから、なんだ、お金を出して観に行ってラブリー光線に洗われるなんていう、ラブリーな所までたどり着けぬ気持ち。
 けれども、矢沢あい先生というコミック界では神のようなポジションにいるらしい先生の作品に、私だって触れてみたい。そう思い立ち、この先生原作の映画化第1作目を鑑賞してみることにしました。 NANA公式  下弦の月公式
下弦の月 ~ラスト・クォーター [DVD] オカルト・ファンタジー・ミステリー…?これが少女コミックワールドなのだと思うので、ストーリーに突っ込むなんて無粋なのだと思うの。これはなんだ、栗山さんのイメージビデオ?hydeさんのプロモーションビデオ?多分後者だと思う。テーマは輪廻転生と業。ゴス。監督はゴスっ子だと思う。
 謎のイギリス人のハーフ幽霊。Adam。アダム。確かにアダムは綺麗だったさ、キュートだったよ顔は。けれども超棒読み。監督的にはあれでいいの?他のジャンルで名前を確立しているようなお人には演技指導とかはしにくいものなのかもしれないけれど、「ああ、感情はおいらの全てさ」などいうセリフを、抑揚のないままダラーっとイングリッシュで喋るアダムさん。ハーフなら日本語にしてあげて!
 でもたぶん、思った。こんなキビしい役どころ、元々人間味の薄いハイドさんだから辛うじて成立しているのかもしれない棒読みだけど。そういう意味では、はまり役だったのかも知れなかった超ぎこちなかったけど。他の人がやっていたなら本物のギャグ。しかもエンドロールの歌にちょっと心打たれ、ラルクのハジケた曲には付いてゆけぬけれど、じとっとした声が案外ダークな曲に似合っており一寸興味を持ったので、ハイドのソロを聞いてみようかと考えもした。しかし映画の中と実際の曲名とが違うのは、何か意味があるんだろうか。
 栗山千明は綺麗だったけれど、演技はたぶん伊藤歩の方が上だった。成宮寛貴さんは、役自体が幼稚で勝手なので何ともいえなかった。監督はきっと栗山さんよりもハイドのファンなんじゃないの?というくらいに、栗山+成宮カップルはいまいちで、アダムさんと恋人のシーンの方が余程映像的に良かった。自然光を感じる画像が在りし日のアダムさんのシーンで、ダークな画面に割り込ませれば、そこが輝くに決まってる。
 だから結局、漫画みたいだなと思えばこれは原作がコミックで、映像美というにはCGが安けなく、神秘的というにはセットに余計なものが多い気がした。木からびろびろ垂れ下がっている布とか、小道具に頼らず映像で魅せればよかったのに。でもどんな映画にだって必ずひとつはいいシーンがあるはずで、私が一番いいなと思ったのは本編じゃなく、最後の最後で、櫂を失くしたボートに取り残された人の物悲しい風景。
 だからきっとこれはたぶん人を選ぶ作品で、私は選んでもらえなかったのだということなんだと思う。一人の時に観て良かった。NANAに行き着く前にお腹いっぱい過ぎて、もう…もう…。