『死の棘』

小栗康平監督作品集 DVD-BOX BS2が今週深夜帯で一挙に小栗康平特集。『埋もれ木』公開だからだろうと思ったら、なんとDVD-BOXが出てたんだ。
 昨夜は『死の棘』をやっていたが、やはり見ごたえがあった。感想なんて出てこない位に凄みがあった。壊れていく妻とそれを見つめる夫というのは、ジョン・カサヴェテスの『こわれゆく女』を思い出す。松坂慶子の張り詰めた演技も、岸辺一徳のフラットな無表情との相乗効果で、一層鬼気迫る関係が浮き彫りになっていた。
『こわれゆく女』が映像の揺れやブレなどで、主人公の不安定な心情や息の詰まる空気と同化していたのと対照的に、この作品の視線は静謐と客観に徹底している。ジーナ・ローランズの演技が役との完全な同化とすれば、松坂慶子は狂気を概念化という感じかも。2作は全くの対極にあるけれども、どちらも凄みがある。
 初めてこの作品を見たときは何故“死の棘”なのだろうと思ったけれど、原作を読んで理解できた。奄美大島に駐屯した特別特攻隊の男と、島の女との恋。死を前にして結びついた絆。2人の根底には死がある。ゆえに狂気を帯びてゆく妻に死を目の前にしていた頃の危機感を見る。執拗な追及は死の棘となって刺さる。妻の激しさは南国女特有の情念の深さなのかもしれないけれど、兎に角息が詰まり、壮絶なものが残る。その凄まじさを、何所までも静かな画面が上手く中和していると思う。