コクーン歌舞伎『桜姫』

 そんな私なので桜姫には骨抜きにされました。
 歌舞伎の概念の破壊みたいな野田版は普通に野田秀樹の舞台をみればいいかという意味で苦手なんだけれども、串田和美の場合は歌舞伎に対するリスペクトが根底にある気がする。
 まずもう、可愛かった。細かい解説なんて書いたって仕方ないので、ただただ言いたい。姫は可愛かった。猛烈に愛くるしかった。
 はじめに台に乗って出てきた時点で、同行者歌舞伎体験2度目の若造女子が「あ、ほんものだ、すごい」と。何故って私はこの女子に「つまんないよ、内容の無い駄作だからね」と言い聞かせながらも『蛇炎の恋』を見せていたから。とにかく同行者は本物を目の前にして感激している様子だった。思い切ったカットもやや強引な展開も、だってコクーンだしと思っていたので兎に角楽しんだ。
 桜谷草庵の場は思ったよりもエロが無く、これは橋之助のキャラの所為もあるかもしれないけれど、なんで桜姫はこの男がそんなに好きになったの?という疑問がわくような元気いっぱいの権助。いつだって元気ハツラツ。匂うようなヤラしさがあまりなく。このお日様の似合う声の大きな男が姫を手玉に取ったの?輝く笑顔で?
 これは観劇して随分たって冷静に振り返った上での感想。実際のところ岩淵庵室の場のしどけない姫を見て私が思ったことは、く…く…くく喰ってやる。この一点。柱で襦袢姿を隠す姫。着物を着せてもらう姫。しかも残月に大人しく組み敷かれてるし。大体この姫、一体どんだけファムファタールなのだ。恥ずかしそうな素振りでどれほど周囲の男を狂わせるのだ。もう喰ってやる!私はもう、ずっとこんなことを考えていました。
 そして最後の場、「あーあ、また稼がせるんであろうの」とグチる姫。もうもう、何でもこうたるよ、おっちゃんに言って御覧よと私は喉のもうここまで出かかった。もう、可愛いよ愛くるしいよ以外の言葉が出てこない。
 だから一体福助は私に何をしたのか。強烈な福助フィルターを透かして見れば、もう姫しか目に入らない。渡辺保が批評で「ヘンな踊り」と言った場面は密かに楽しみにして行ったんだけれど、私が観た頃には踊りというよりは狂乱した女子が彼岸へジャンピングという感じだった。
 同行者の女子は大満足の様子。観終わって帰る道すがら、同行者は謝りましたよ。「ごめん、過去歌舞伎が好きなんておばさんみたいなんて言って。めっちゃ面白いわ」と。この女子は七之助が登場するなり私の耳に口を寄せ、「警察殴った人でしょ?」と。え?警察なんて出てきたっけと一瞬考え、咄嗟にをたしなめた。「そうだけど、だめ!」 
 こんなクソ席と思っていた平場真ん中ブロックの通路側最後列。私の1メートル以内を姫が袖を咥えて上ってゆく。くらあ、ときていると同行者「今めっちゃいい匂いした。福助からした」。終わってからも盛んに言っていた。あれどこのかな、欲しいよと。終了後のロビーには串田和美福助夫人が居た。あの着物の人に聞いてきなよ奥さんだからと言ってみたが、私たちはそのまま帰路に着いた。
 そんなこんなで歌舞伎に興味が、特に福助にピンポイントで興味が無ければ全く面白くも無い日記をだらだらと書きました。