ゆきっつぁん、振り向いて

 これほど一人の人を深く思ったことはない。こんなにも一人の男を欲したことはない。私の細胞が彼を求めている。私の魂が彼を呼んでいる。私の指はいつも彼を探している。ああ愛しているんですもの。なのにつれない人。気まぐれに私の元に立ち寄っては、さっさと行ってしまう人。冷たい人酷い人。そんなところもまた私を魅了する。誰も彼も老若男女、皆が彼を好きになる。だって素敵なんですもの。その土気色の肌に似合う渋い色のお召し物。きっちり撫で付けた髪型に、への字に結んだ口元、どんな男だってかなわない。ああ彼に包まれて眠りたい。ああ彼に囲まれて暮らしたいの。福沢諭吉。ゆきっつぁん。さむいポエ夢を山ほど書きます。冷たくしないでください。
「好きなタイプの有名人は?」なんて実際はほとんど口にされることの無い質問を受けた折には、必ず「うーん、年上なんですけど、存在感が好きなんですよね」などもったいぶって「福沢諭吉かな」と答えている。みな同意してくれる。こんなに恋焦がれているのに、何故いつも片思いなのか。
 テレビではみんなホリエモンを叩く。「人生金じゃない!」でもでも、世の中お金じゃん。貧乏人の私は骨身に染みて痛感する。世を動かすは金。潤いのある人生も金。己に余裕を持つも金。人生楽しむも金。私が「人生金じゃない!」とほざいたところで、負け惜しみにしか聞こえぬ。誰かちょうだいよちょうだいよ。
ヘドウィグ・アンド・アングリーインチ』のミュージカルに行きたい!三上博史のヘドウィグちゃんに会いたい!無理っぽい駄目っぽい。ああ。ああ。洋服が欲しい。下駄が欲しい。新しいベッドが欲しい。部屋に溢れかえる機料やその他もろもろもろを上手く収納できるかわいいラックが欲しい。かっこいい本棚が欲しい。それを置く大きな部屋が欲しい。その大きな部屋のあるマンションが欲しい。マンションをビルごと欲しい。福沢諭吉が欲しい欲しい欲しい。