『贅沢な骨』

贅沢な骨 [DVD]  みようみようと思っていてそのままだった映画。女なら共感できると聞いていたけれども。
 ホテトル嬢とそのペットのサキコ。当然レズビアンカップルなんだろうと思っていたのに、最後の方になって「実は好きなの」と言い出だし、え?じゃあなんで同居してたのきっかけは?と穴に落とされる。ミキサーの中の金魚と、口をパクパクさせるミヤコのリンクは頻出しすぎ。孤独や閉塞感も今ひとつ。
 惰性でホテトルしている割には、ミヤコは荒んだ感じが薄い。何か中途半端。「お客だけが私を必要としてくれる」という寂しさも、がつんとこない。惰性のホテトル嬢って、シーツで体を隠しながらシャワーに行くなんていう、しおらしい女なの?でも新谷に「サキコと寝てよ」あいつも汚してよというのは、たぶん切実な思いなんだろうなあと思った。
 サキコの好きな曲は、昔新谷がやっていたバンドっぽい。不思議ちゃんになって、殻の中で日々無為に過ごしているサキコの「私は汚いから」という台詞は良かった。純粋を装っていれば愛してもらえるよね。でもその「汚い」感覚の所以は何か適当だし、その克服はややこじつけ。新谷の台詞も陳腐。一見行間を読ませるようで全部説明していて、そこに振り幅がなく納得できないものが残る。
 だいたい女の性欲は、溜まるから排出せんければならんとかではないわけで、傷を癒したり孤独を埋めたり自分を確かめたりするのを、全部性交でやっつけようとするのはいかがなものか。きょうび小説の世界でも、女子がだらだら過激なセックス描写を書けば女子の暗部をえぐっている、とか安易なスタンスがあるけれど。ミヤコにとって新谷とのセックスだけが自分の輪郭を確かめられる行為なら、その必然性を麻生久美子は表情でいいから訴えて欲しかった。そうすればその寂しさとか空しさに共感できたかもしれない。
 ラスト、ミヤコが首を絞められること=快感へと展開していくプロセスが雑なため、死が非常に薄っぺらい。お客に首を絞めてもらって、涙を流しながら恍惚として死んで欲しかった。そうすれば、ああ人間って悲しい生き物だなと思えた。
 そもそも女子2人は、最初からレズのカップルの設定でよろしいじゃん。だらだら付き合ってセックスもしなくなった空気カップルに見えたし、そんなのヘテロとて同じこと。同性愛を描くと共感性を失うかといえば、その実そういうわけでもないし。特異なものという扱い方なら別だけど。
 最後に骨を拾うサキコの表情は秀逸。心底悲しいと人間は感覚が麻痺してしまう。きょとんとした顔で骨を見つめる姿は、泣き崩れるよりも痛々しく見える。飄々とした中に感情が滲んで見える永瀬正敏もよかった。
 監督は何か独自の死に対する憧憬というか美学みたいなものがあるんだろう。全体として、とても叙情的というかセンチメンタルな感じ。あとはたぶん好み。印象的なカットが沢山出てくるし、独特な映像感覚はとても綺麗。もう一度見てみようかなと思いもする。テンポも心地いい。ナレーションがいらないけど。
 センスのいい映像美で人間同士の摩擦や感情をニュアンスで描き、叙情的なナレーションが入る。生と死と離別をセンチメンタルに綺麗に…、あれ待てよこの流れ、行定勲。世界の中心ナントカだ!ああここで