男のロマンですかブーブーは

 近しい人物で、レーサーをしていた人がいる。F1目指して、10代の頃から全部をレースにかけてきた感じだった。恐ろしい金喰い虫が住んでいる世界。私は完全に外側からしか知らないが、レーサーでい続けることって結局金なんですか?という切なくも厳しい事情はちょっとだけ知っている。世界一稼ぐスポーツ選手はレーサーのミハエル・シューマッハ。マッハ。いかにも速そうな名前。どれだけ大量の金が動いているのか、素人には検討もつかない。
 才能があっても金が続かなければそこまで。何千万円というマネーをかけても花開かない人のほうが圧倒的というかほとんどなわけで。外国のレースに参戦して年間チャンピオンを獲得したって、次の年も契約がもらえるとは限らない。部外者であり車に大して興味もない私には、結局このモータースポーツという世界の魔力が分からない。しかし不景気なジャパン、レースに金を出すお金持ちも少なそうだよ。スポンサー周りとか資金捻出とか、現実的な話がどっさり。
 知人は子供のころアイルトン・セナに憧れてレーサーを目指し。セナさんは大金持ちの息子。佐藤琢磨も医者の一人息子。片山右京だって、最終的には医者か弁護士かの父親がぽんと2億出してイギリスに行ったと聞いた覚えがある。しかし親が金を持っていても、記録が出せるわけじゃない。ヨーロッパの某国でレースに出ていて、日本でもそこそこ名前が通っていた人、あの人今何してんの?と訊ねたら、「毎日パチンコしてるらしいよ」って。父親が横領とか詐欺事件を起こした人の話も聞いた。それも一人じゃなかった。
 誰もが佐藤琢磨になりたいのに、飛び向けた才能と莫大なお金と最強の運、その全部が揃わなきゃ無理。さらにチャンスに恵まれ、尚且つそれを確実にものにできた人がF1に乗れるんだろうな。はいて捨てるほどいるレーサーの中で。
 ずいぶん前、その知人が日本のなんかのレースに出ていた年に応援に行き、パスをもらっていたので中に入った。あっちにもこっちにもレースクイーンがいて、山田孝之電車男にそっくりの容貌の人が、さらにデコにはバンダナを巻いてでかいカメラで撮影していた姿に衝撃を受けたものだったが、しかしあの時一緒に競っていたメンバーというかレーサーの中で、今現在もレーサーだという人はいるんだろうか。多分そのほとんどが何かしらの職業についているのではなかろうか。
 彼自身、まだ四捨五入すればハタチの齢だけれど、夢敗れた人を見るのは辛い。敗れたんじゃなくて、夢が終わったのか。でもたぶん、あちこちの国で車に乗ってレースに出て何度か表彰台にも上がって、十分頑張ったんだと思う。私はずっと、夢があるのは羨ましいなと思っていた。
 作家になりたいとか、画家になりたいとか漫画家とか詩人とか、そういうものなら、ニートであれ勤め人であれ、その気になれば一生夢を見ていられる。こつこつやり続ければいいんだし、いつかはいつかは、という思いをいつまで持ち続けるかの問題。でもレーサーの場合だと、その辺は超現実的な区切りがつく。スポンサーが着かないとか、資金がいかんともならなくなったりとか、はたまたチームとの契約が切れるとかすれば、たちまち車自体に乗ることが出来なくなる。まあそれだけじゃないんだろうけど、レース界をよく知らない私には、そういうことに見える。
 この厳しい浮世、叶わない夢の方が圧倒的に多い。いくら頑張っても駄目な時もある。どれだけ努力しても成れないものはある。しょうがないものはしょうがないんだなあ。私は月9のキムタク様を眺めながら、少しく切ない思いがした。そしてやたら長いことをくどくどと。