花のほかには松ばかり

娘道成寺 蛇炎の恋【特別版】 [DVD] 雨の中の道成寺。台風上陸で屋外で出来るかというところなのだろう。「やらしてよ監督ーぅ。こないだの撮影みたいにぃー。もぉー」なんておばちゃんみたいな口調でぶーたれながら登場する福助丈。そりゃぶーたれもするだろう。雨天の場合は近くの小学校の体育館で照明も鐘もナシって話だったそうだから、想像するだけでそりゃもう、悲しいほどしょぼいよ。だだもこねるさ成駒屋のプリンスだって。
 しかし始まる前のアナウンスをしているその姿に驚いた。浴衣にフルメイクで鬘ナシ。縁側に座ってマイクを持つその雄姿、それでもがばっと膝を開いたりはしない。先輩の真女形、プライドの高そうな玉三郎様なら絶対に人目には晒さぬであろうあられもない姿。そりゃお客さんには見えないけれども、やはり少しく変わったお人なのだろうか。
 見たくて見たくてしょうがなかった、台風の迫り来る雨の中での京鹿子娘道成寺。もう感想なんか何もない。本編がどれだけ寒かろうが薄かろうが謎だろうが、これだけで十分です。もう圧巻。恋の手習いの手ぬぐいを振り回す際、前列のお客にびしゃっ、などといって激しくしぶきを飛ばして恐縮したとか、袖に引くたびにお弟子さんたちが前から横から後ろからぎゅうぎゅう絞ったとか仰っていらしたが、そんなことは微塵も感じさせないです。
 なんだかんだで歌舞伎は初心者、ダンスと言えばクラシックバレエを冷やかし程度にやっていたというだけの私に日舞の素養はなく、どのポイントを持って舞踊の達人か否かはよく理解できない。観ていてうきうきするとか、うっとりするとか、特に何も感じないとかいう程度。通は「たくさん見るうちに分かってくる」と。
 道成寺はポピュラーな演目というだけあって、色々な方の舞踊を見比べることが出来、それだけで楽しい。あの長唄もかっこいいし、言葉の流れも綺麗。覚えたい。眺めているとあっという間に終わってしまう。