『ボウリング・フォー・コロンバイン』

ボウリング・フォー・コロンバイン [DVD] ミネソタで高校生が銃乱射し、そこで出てくるコロンバイン高校。マイケル・ムーアの『ボウリング・フォー・コロンバイン』の一コマがニュースなどで取り上げられていました。ドキュメンタリーだって人間が作るゆえに主観と言うものが存在するわけで、この映画に描かれたことがアメリカの全てだとは思わない。しかしエンターテイメントとしてのドキュメントという姿勢は、ムーアの最大の魅力。眼鏡をかけたトトロがカメラを担いで突撃取材。
華氏 911 コレクターズ・エディション [DVD]華氏911』が、9.11からイラク戦争を、ブッシュ糾弾にかまけるばっかりに客観性を大きく失っていたことを考えると、こっちの方がかなり面白い作品だと思う。華氏、軍産複合体や肝心のネオコンはおざなりなんだもの。最近世界銀行の総裁になったあのユダヤ人も、カメラの前で前髪を気にしているカワイイおっさんにしか見えない。あの辺、曲者でしょ。イスラエルの絡んだもっと泥臭い話もありそう。そっちの方がスケールでかそう面白そう。確か田中宇が、凄まじい方向から突っ込み入れていたような。でもこの映画は置いといて。
 物事は正面から論破されるより、ユーモアで皮肉ったりするほうがずっと面白いわけで、米国の銃社会を解剖したという今作は、確かに米国と銃信仰、消費社会の原理、集団心理とかを、違う文化を持った外国人にも分かりやすく、尚且つ楽しめるつくりになっていて長尺でも飽きない。物事を上手く茶化すのは難しいし、そのへんはさすがに上手いよムーア。
 でも何か違和感も。銃社会の闇は、Kマートに被害者を連れて行って弾を売らなくさせて喜んだりする単純なことなの?単なる看板でしかなさそうなチャールトン・ヘストンにw.a.s.pの一般的認識を語らせ、さあ謝れよと迫ることで何かがどうにかなるわけ?その玄関に被害者の写真を置いてなんになるのさ。前半の面白さに比べて、最後の数十分の陳腐さがどうにも。なんでコロンバイン事件はおきたのか。銃が簡単に入手できることも、確かにかなり大きな理由だと思う。でもそれだけで高校生が大量虐殺して自殺するんだろうか。
 同じ頃、ジャパンでは14歳の酒鬼薔薇がものすごいインパクトの事件を打ち上げて、自己顕示していた。10代だった私もさすがに眩暈がした。あの中学生について以前調べなきゃならぬ時に、両親、被害者遺族、弁護士の手記を含めて10数冊ざざっと読んで、酒鬼薔薇の『懲役13年』という文章の出来にうなった。ニーチェやダンテの孫引きコラージュなんだけど、なんともはや。自分の闇を言い当てる言葉を欲していたのは確かなんだろう。確かに知能は高かったのかもごく限定的に。親がもう少し無知で無教養じゃなかったら違ったんだろうが、まあ、人の道を踏み外したのは本人だし。命に価値は無いというなら、わざわざ殺す価値もないわけで、結局、おいらの存在認めてくれよ寂しいよ、みたいなことだったんじゃないの。
 酒鬼薔薇の事件で興味深かったのは、本人は言わずもがな、同級生達の反応。聞いた話では、流出写真を女子生徒達は「かっこいい」といい、男子生徒の中でもおかしな奴は、自分に漢字の妙な名前をつけて酒鬼薔薇気取りが出たということだった。なんというか、代弁者だと感じカタルシスを得た子達が意外と多かったのだということ。あの自意識過剰な文章と、普通の神経では到底出来ない残酷な事件は、ある種の子達の胸の内をピンポイントでついたのだろう。ネオ麦茶とかその他もろもろの。
 脇にそれたけれども、なんだかそういう所謂10代の闇という部分に触れずに、コロンバイン事件を分解は出来ないんじゃないかと思う。何故起きたのか、という疑問に触れるなら、もっと犯人の高校生達の肉声に迫るもの、日記でもネットへの書き込みでも、両親へのアポなし取材でもすればよかったんじゃないのかな。
 鬱屈した感情の先に、手を伸ばしたら銃があった。つまりはこういうことなんだろう。だから、「なんでそこに銃があるのさー」みたいなことをいっても何か物足りぬ。監視カメラの映像で、バックにマンソンの曲がインストで延々流れてるだけのシーンは印象深かった。こんなあほな方法しか思いつかなかったのかと切なさまでも。
 事件後に手ごろなスケープゴードにされて、一時引きこもりになったマリリン・マンソン。インタビューでは一番ブリリアントな発言をしていた。「コロンバイン校の生徒達に何か言うとしたら、どんな言葉をかけますか」「何も。ただ黙って彼らの言葉を聞く。つまり誰もやらなかったことを」。そんなマンソンさんですが、今回は攻撃されずにすみそうです。小太りになって、恐怖と悪のイデオロギストから、破廉恥パーティーバンドへ進化したから。いいよいいよマンソン。
 今回のミネソタ事件、犯人の少年は笑みを浮かべ、手を振りながら級友らを次々と射殺していったんだって。友達もいなく孤独な高校生活だったそう。なんだかなあ。コミニュケーション能力の欠如なのか知らぬけれども、いじめられっこの逆襲なんだろうか。かといってやけくそで殺された方はたまんないよ。とかく浮世は複雑怪奇。考え込む。