ザ・ホステージ

mxoxnxixcxa2013-02-27

 ある初老の男の、人生の着地点を描いた作品。
 自分は誰かにとって特別な存在なのだ。それを実感することができたら、自分の人生は価値のあるのものなのだと、信じることが出来るだろう。
 主人公は、誰にも注意を払われることがない。会社の同僚にも、妻にも、娘にも孫にも。誰ひとりとして彼を気遣い思いやる人物はおらず、一目置かれることも求められることもない。
 以下、何の隠す気もなく映画の着地点に触りまくった感想を書きます。

 満たされない人間を、とてもリアルに描いた作品だった。その孤立感は、すでに痛みを伴うような段階をとうに離れた後の、染み込んで当たり前になってしまったものだ。
 主人公は自分の孤独を正視することが出来ず、自分でさえ気付かぬまま、心底ではどうしようもない孤独に怯えている様に見えた。彼は決して孤独が好きなのではなく、どうしようもなく愛情を欲しているのだ。妻からの、孫からの、誰かからの。けれど不幸なことに、自分の孤立の理由に向き合うことが出来ず、その寂しさの訳に気付くことが出来ない。
 常に何か夢みてきた彼を取り囲む世界は、その夢の罪深さほどに、彼の人生がいかに薄っぺらいものであるかを説明なく匂わせていて、とても真に迫るものだったと思う。彼の思い描く世界は、彼が実際いかに手に負えないほどの満たされなさを抱え、等身大の自分を直視することを放棄してきたかをあぶりだしていく。
 この男は、空想世界へ逃げ続けたからこそ実生活というものから目をそらし、逃避の果てに、目の前の大切なものをないがしろにし、取りこぼしてきたのではないのか?ものすごうく説明の少ない映画なのに、そのあたりがとてもリアルにほのめかされていたと思う。
 テレビの中に人物が、ある日ふとしたきっかけで自分と出会い、誰にも認められることのない埋もれた自分を見出し、特別な存在であったことを思い出させてくれ、世間に存在を示してくれる。「おまえは私にとって特別な存在なのだ」と、欲しくて欲しくてたまらなかった言葉をくれる。そんなことってあるかよ!って思えているうちは幸運なんだろう。
 年をとり、自分の人生を改めて眺めた時に、彼のようにならない保障はあるだろうか。自分は一体何を残してこれたのだ?価値あるはずの人生で、価値ある自分を見出す幸運に恵まれなかったら?人に疎まれ、一人ぼっちで、テレビだけが話し相手の、空っぽで孤独な人生が残ったら?それを素直に受け入れられるほど、強い人間であればよいけれど。目を閉じて、こんな風ではなかった、もう一つのあるべき人生を思い描くことを非難できるだろうか。
「誰かの特別になりたい。尊重されたい、尊敬されたい、愛されたい、認められたい、称賛を浴びたい。誰も、本来の自分の素晴らしさに気づいていないだけだと思いたい。自分だけはそれを知っている、本当の自分は価値のある人間なのだ。自分は孤独なのではない、特別であるからこそ理解されていないだけなのだ。あの名の有る人物に、自分の価値を理解できる人物に、本当のおまえは特別なのだと言ってもらえば、全ての惨めさは消えるだろう。」
 そんな虚しいばかりの、声にもならない叫びが潜んだ映画だと思う。そのうえで良く出来てるなと思ったのは、憐憫や同情に着地させるでもなく、結局のところ、全ては彼の選択してきた生き方の終着地であり、どうする術もなく辿りついたわけではない。という喜劇に着地させているところが映画というエンターテイメントを成立させていて、面白かったしよく出来てたなあなんて思った。
 原題は「OFF SCREEN」。よく出来たタイトル。モントリールとかで賞をとったみたいだけれど、なんでか最近見ました。

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