母親このカワイイ妖怪

mxoxnxixcxa2006-01-30

 各御家庭の形態にもよるんだろうけれど、いくつになっても母娘はぶつかりがち。「私の可愛いお人形」でなくなった少女と母の衝突。やがてはオンナ対オンナの自尊心をかけた衝突。
 しかしそこは血縁。ハハオヤという化け物に感情が乱されると荒くれた気分になる。この妖怪は変化自在なので、例え離れた場所にいたとしても、受話器の中から「もにちゃん、そんなんじゃだめよ」と流れ出すことだって出来る。「私の人生はなんだったの」としなだれかかることだって出来る。そんな可愛い化け物。
 母と名のつくものが無条件に万能な訳じゃない。自分と同じ弱きヒト科の生物なのに、なにかこう、「ハハオヤ」と呼んでしまうと何か偉大なる記号みたいな。人じゃない何かイメージの産物みたいな。全てを受け入れる慈愛の母なんて望む側の幻想で、子供の権利を振りかざして何でも望めば叶えられるわけじゃない。だいたい理想の娘になれなかった時点で、理想の母を求める権利はない。お互い様なのだ。互いのダメ出しばかり。
 融通の利かなさがカワイイと思えば、少々のことも笑って流せばよろしいよ。何を言われても私は変われず、言い返して相手が変わるわけじゃない。しかし他人に気分を害するようなことを言われても、くだらないわと無視するだけの話なのに、何で相手が母だとこんなにひっかかるのだ。どうしてこうも冷静に流せないのかしら。とにもかくにも、かちんとくる。西行の言葉を知らずにバカ呼ばわり。ナントカカントカとか言われてもワカンネー!なんでこんなに遣る瀬無さが募るのか。それは血縁ゆえの愛着よって脳内小人が言いますよ。ああ面倒くさい。
 イヤな奴が自分に似ていることがある。もしかして私は母に似ているのじゃないかしら…何にも満足できず、自分の過剰な喜怒哀楽に振り回されて疲れてしまう、あの不毛な気質に。何かにつまずけば必ず自分が被害者になる、あのずるさを引き継いでいるかしら。私は母のように、無意識に他人を追い詰めるかしら。過剰な期待を寄せては裏切られたと嘆くかしら。感情を武器みたいに振り回して誰かを傷つけるかしら。
 あのボーダー気質を受け継いでいたらと思うと、恐くて不貞寝したくなる。母みたいな妖怪ママゴンになるくらいなら、子供なんていらないのだ。一人では映画館にさえ行けない女。依存度・密着度が高い女。勝手に傷ついて、自分が一番の被害者になってしまう女。それでも外面だけは抜群にいい女。身内以外にはやけにウケが良い女。知識と教養はあっても、バランス感覚が欠如している女。良い子ちゃんでいなきゃと頑張る女。しかし無理がたたって近しい人間に当たってしまう弱い女。
 でもどうせ、ハハという記号を踏んづけて逃げたところで、ふりむけば妖怪は股間から血を流しながら追いかけてくる。
ハハになんてことするのー!あんなに苦労して生んだのにー!
 で、娘はたぶんひれ伏して謝ってしまう。面倒なことは面倒くさい。出来損ないの娘は申し訳なさを一生感じながら母の愚痴を吸収して支えなきゃいけないか?生んでいただいた御礼に、一生涯かけて背負い続ける義務があるか?長女ってだけで。妙な愛着も絡まって、愛憎半ばの切っても切れぬこの関係。産んでくださった女の人生は、その被造物を突き放す一方で重くのしかかる。なにかこう、女と女がぶつかれば色々とシンプルじゃない。血縁が絡むと尚の事。ああ。