乙女フィルターで見るめくるめく澁澤世界

 少女趣味を「フリルまみれの暴力世界」と最初に例えた人は素晴らしいと思う。それでこのごてごて装飾過多な世界をこよなく愛しながらもそのメイン街道に流れていそうな少女漫画というものに触れぬまま成人してしまい、今この時に10代であったとしても、ロリータファッションで没個性と奇抜さを同時に体現できるエキセントリックな子になる勇気があるかしらというと、あまり自信ない。でも好きなんだデカダン愛してる。倒錯美万歳。
 私は耽美でややダークな少女趣味的ゴシック世界をこよなく愛していて、なんとなればもう夢はコルセットのドレスを着て生活することだったりして、あの過剰に膨らんだスカートにウエストをぎゅうぎゅう締め上げるドレスの、あの過度の拘束とか圧迫とかが猛烈にフェティッシュ心をくすぐる。それを着て胸を上に向かって潰して豊かな胸元を演出し、そのときmy boobsは勿論谷間が生まれる程度にのはず。
澁澤龍彦翻訳全集〈5〉 悪徳の栄え,悪徳の栄え 続 ジュリエットの遍歴,補遺1959年 他 そうして、もう放蕩三昧。私の顔は多分アンジェリーナ・ジョリーで、そんなアンジーは『悪徳の栄え』のジュリエットになっていて、男といい女といい動くもの全てと淫行に耽り、いたいけな少年少女を奴隷にしていたぶってぶっ殺し、きゃあきゃあ言って高笑い。残虐非道の限りを尽くして無邪気におおはしゃぎの人生。良心の痛みも呵責もまったく感じない。美徳の全てを鼻で笑い飛ばし悪徳こそが世の本質!と宣言。愛すべきは贅沢と快楽のみ。善なんてつまんない悪のほうがよっぽど刺激的で魅力的だわ!
世界悪女物語 文春文庫 で、中年に差し掛かり、自慢の美貌が揺らぎ始めたらエリザベート・バートリみたいに処女を何百人も周辺の村から狩ってきて、夜な夜な裸にして城中を追い掛け回し、鉄の処女にぶち込んで処女の血でシャワーを浴びて若さを保つとかが老後の夢。拷問器具のコレクションを眺めて悦に入ります。
 多分私はマルキ・ド・サドが好きなんじゃなくて、SMがしたいんじゃなくて、乙女ドリームとして澁澤世界が死ぬほど好きなんだと思う。痛いこととか酷いことは出来るだけ無関係な人生にしていきたい。『悪徳の栄え』はサディストの神にして元祖の小説だけど、性的嗜好としてのSM描写を期待して読んだら求めるものは得られないので、団鬼六を読むといいと思います。私は美貌の奥さんを延々と陵辱するばかりの鬼六先生の世界は、なんで奥さんがその後喜んで奴隷になってしまうのかや、辱めが悦楽になっていくその心理的変化が見つけられずに物足りなく思い、あまり興味がないので、未だに澁澤にのぼせ上がっているのです。『悪徳の栄え』は『美徳の不幸 (河出文庫―マルキ・ド・サド選集)』と対になっており、いかにサドがアナーキーだったかを窺わせる悪の哲学満載。
 油ギッシュにハァハァ言うのが聞こえてきそうな文章だと引くけれど、怜悧で端正な文章だとその世界に引き込まれてもう戻って来れないよ。女性に対して少々辛らつだってかまわない。澁澤万歳
マルキ・ド・サド エリザベート・バートリ