番組名は忘れた。NHKドキュメント・ある夫婦

 昨日、午後11時からNHKのドキュメントを見た。若年性アルツハイマーの夫とそれを笑顔で支える妻。妻の本音日記。美談だけではない介護者側の苦悩も。日本の家族や夫婦の問題までも考えさせられ。
 この越智さんって、去年の京都国際会議で、患者として患者の視点で講演をし、同時通訳が泣きながら通訳したことで話題になった人じゃないかな。クリスティーン・ボーデン*1の講演活動もずいぶん前にテレビでやっていたけれど、彼女も来ていた様な。
 まず、物覚えが悪くなり始め、やったことや話したことをよく忘れるようになり、記憶も段々と失っていく。考えながら話すことも困難になり、文字の書き方も、読むことも困難になって行き、数秒前のことも忘れ、思い出が消えていく。
 私はなんだかいつも疑問に思っていた。何も分からなくなったら、その人は果たして尊厳ある人間といえるのだろうか。頭の中には、何が残るのだろう。もし何も無いなら、その人は生きている意味があるのだろうか。生命の価値って、何に所以するんだろう。浮世のしがらみから開放されることは、もしかしたら周りの人間は超大変でも、本人は幸せなんじゃないのか。そんな風に思っていた。ボーデンの講演内容、様子を見たときは、え、嘘。本当にアルツハイマーなの?明晰じゃんとか思った。しかし当事者視点の話に、言葉を失ってしまった。
ボーデン「癌になっても自分のままで死ねる、けれど私はこの病気で、誰になって死ぬのだろう」「私が私であることを支える思い出の一切を失くし、私が私であることさえも忘れてしまったら、いったい私は誰になるのでしょうか。私はどこへ消えていくのでしょうか。それが恐くてたまらないのです」
越智さん「私は思い出の全部を失くしてしまうかもしれない。全部忘れてしまうかもしれない。でも奥さんのことだけは覚えて居たいのです。私自身がもう分からなくなっても、それでも頭の中に奥さんが残っていると思いたいのです」
 それに対して奥さんが日記で、「みんな泣いていたけれど、私は泣けなかった。こんなことで泣いていては、毎日泣いていなくてはいけない」と書いていた。越智さんは翌朝、講演したことをほとんど忘れていた。
 奥さんと思い出作りに旅行に行き、写真をいっぱい撮っても、一週間後写真が出来上がってきたら越智さんは「ぜんぜん覚えてないです。でもたのしそうに笑ってますね」。なんかやりきれなく切ないよ。明るく振舞う奥さんの日記「結婚生活、私はずっと苦労してきた。私は誰にも頼れなかった。やっとここから夫婦として再スタートをと思っていたのに、やっと夫に頼れると思っていたのに。私は女だ男じゃない。誰かに頼りたい。強くなりたい」。なんかもうなんとも言えず、考え込む。

*1:オーストラリアの若年性アルツハイマー患者で、元政府高官の女性